コンプレックス






お前のことはわかっているよ、という風な顔をされるのは虫唾が走るが、そんなの
笑って、適当にいなすに限る。いちいち目くじら立てても仕方ないし、相手は俺を
わかっていると感じることに満足しているんだから、それを邪魔しなくてもいい。
ただ、俺がムカついてさえいれば。
いつからそうなったのか知らないけど俺は俺を理解されることを嫌う。どうしてか
嫌う。何でか嫌う。理由なんか別にないんだろう。嫌なもんは嫌で、嫌いなもんは
嫌いなんだ。最早本能行動。





「でも、そんな藤真さんて、誰も知らないよね」





知らないっつーか、誰もわかんないだけで、俺も別にそういう自分を見せようとは
思わないし、見せたくないし、わかろうとしたってわかんないようにしてるというか
世渡り上手なんだよな、結局。あー何か日本語違うような気がするけど、それが妥当
な言葉なように思う。
本当の自分なんて結局誰も見せたくはないだろうし、誰だって自分自身をある程度
わかっているだけで大半はわかっちゃいないんだから、他人をわかるはずもない。
歩み寄る努力はする。けれど、それは満たされるもんでもない。





「まぁいいんじゃない、それで」





俺は自分が好きじゃない。きっと好きじゃない。建前部分にいる自分も本音部分に
いる自分も、どっちも嫌いだ。自分が自分をわかりたくないんだ。そんな俺が誰かに
自分をわかってもらいたいなんて思うはずもない。
なんだろな、自分でももっとらくにしたらいいんじゃないのかと思う。嫌いだと思えば
思うほど、自分をがんじがらめにしているような気がする。けど、そう思ったり感じたり
するようになったのは、本当に最近のことで。





「それが藤真さんだし、藤真さんは藤真さんなんだから」





わかっている。俺は、俺で、そんなこと思いながら、結構自分のことをわかっている。
だから気付かれたくなかった。知られたくなかった。自分の根底にある、自分を嫌いだと
強く思う要因を。
それがあったから、それがあるから、だから頑張れた?だから今までやってこれた?
なんて思うこともある。でも、それは少し悲しいことだと、今だから、思うんだ。そう
思えるようになった自分は、少しだけ嫌いじゃない。
いや、むしろ好きだろう。





「すこし、やすんだら?」






あぁ、そうだ。
俺は少し解放された方がいい。
自分を動かしていた、コンプレックスから。
そう気付かせてくれたのは、ずっと遠くにいた、ずっと遠くで俺を見た、お前。


















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